ハイブリッドBPO:ラストワンマイルの課題を解消する

インテリジェントな業務処理を企業全体へ

 

市場で最も優秀なアナリストを採用し、山のような書類を渡したと想像してみてください。しかし、その書類を正しく理解するために必要な情報は、すべて鍵のかかったキャビネットの中に保管されています。顧客記録、保険契約や各種契約の履歴、口座残高、過去の保険金請求、診療記録、不正の兆候、そしてどの情報が正しいのかを判断するためのマスターデータです。

このアナリストは、すべての書類を読むことができます。分類や要約、パターンの特定、推奨事項の提示も可能です。しかし、その結論が企業の保有する情報と一致しているかどうかは確認できません。この保険契約はまだ有効なのか。この請求書はすでに支払われているのか。この申請者は昨年の冬にも同様の請求を行っていたのか。

これが、AI時代のビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)が直面している状況です。アナリストの役割を担うのは、今や高性能なAIモデルです。しかし、そのAIも必要な情報にアクセスできなければ、限られた情報だけを頼りに判断することになります。

BPO市場は大きな転換期を迎えています。AIとインテリジェント・オートメーションによって業務処理のあり方が変化し、顧客企業はアウトソーシングパートナーに対して、さらなる自動化、精度の向上、そして測定可能な効率改善を求めるようになっています。

一方で、特に規制の厳しい業界の顧客企業は、データ主権、プライバシー、サイバーセキュリティ、AIガバナンス、機密性の高いシステムへの外部アクセスについて、これまで以上に慎重になっています。情報が厳重に保護されているのには、正当な理由があります。

その結果、BPO事業者は難しい立場に置かれています。AIは情報を抽出し、解釈し、推奨事項を提示できます。しかし、実際の業務に適用するには、信頼できる企業情報に基づく検証が不可欠です。顧客企業が求める精度、ガバナンス、説明可能性を確保する必要があるからです。こうして、アウトソーシングされた業務処理と企業内の意思決定との間に、「ラストワンマイル」のギャップが生まれています。
 

ラストワンマイルの課題
 

従来のBPOでは、業務の役割分担が明確です。BPO事業者は文書、取引データ、業務案件などを受け取り、合意された処理を実行して、その結果を顧客企業に返します。顧客企業は自社のシステムを使って結果を検証し、必要な情報を補足したうえで意思決定を行い、後続の業務を完了させます。

この役割分担が、自動化できる範囲を制限しています。BPO事業者は通常、処理結果の検証や状況の把握に必要な顧客情報、保険契約情報、保険金請求履歴、財務情報、医療情報などに直接アクセスできません。

これまで企業は、データの抽出・提供や、特定のシステムへのアクセスを認めることで、このギャップを埋めてきました。しかし、こうした連携手段を追加するたびに、システム統合の負担、データの重複、セキュリティリスク、ガバナンスの複雑化が生じます。いずれも最高情報セキュリティ責任者(CISO)にとって望ましい状況ではありません。

AIの普及によって、この課題の重要性はさらに高まっています。顧客企業はBPOパートナーにAIの活用を期待していますが、AIが生成した推奨事項も、信頼できる企業データと照合されなければ、実際の意思決定には十分に役立ちません。BPO事業者は受け取った情報を処理・解釈できても、検証、判断、実行に必要なシステムには依然としてアクセスできないのです。

このラストワンマイルのギャップを解消すれば、機密データを顧客企業の環境外に複製することなく、信頼できる情報に基づいたエンドツーエンドの自動化が可能になります。

ハイブリッドBPOは、まさにそのために設計されたモデルです。安全なオーケストレーションによって、BPO事業者と顧客企業の両方の環境にまたがるインテリジェントな業務処理を実現しながら、機密性の高いシステムや情報、ガバナンスに対する管理権限は顧客企業が維持します。
 

企業側エンドポイント
 

このモデルの中核となるのが、顧客企業自身の環境内に導入される、安全なオーケストレーション機能を備えた企業側エンドポイントです。

このエンドポイントは、ガバナンスに基づいて管理された接続を確立します。これにより、BPO側で処理された情報を、顧客企業のデータ、AIサービス、ビジネスルール、人による専門的な判断を活用して補完・検証し、その後の業務に利用できるようになります。

最初はシンプルなゲートウェイとして導入し、その後、顧客企業側での案件の振り分け、意思決定、ワークフロー、自動化を担う、より包括的なプラットフォームへと発展させることも可能です。

実際には、この境界をまたぐ処理は大きく4つの段階で構成されます。

まず、文書、データ、業務案件が、セキュリティ、プライバシー、データの取り扱いに関する統制を備えた情報交換レイヤーを通じて、2つの環境間を移動します。受信した情報は分類、抽出、検証、要約され、タスクごとの要件に応じて複数のAIモデルが連携して処理します。

次に、企業側エンドポイントが、顧客企業のAPI、データベース、マスターデータ、基幹システムを利用して処理結果に情報を補完します。

例えば、保険金請求の案件であれば、顧客企業の環境内で、申請者の履歴、補償内容、不正の兆候、過去の請求、支払い状況などを照合できます。これにより、案件の一次判定の精度が大幅に向上します。

続いて、補完された情報に企業のルールと統制を適用します。ビジネスルール、AIの信頼度しきい値、コンプライアンス要件、リスクスコアリング、エスカレーション基準、意思決定の追跡可能性などが、AIの出力と実際の業務上の判断との間に組み込まれます。

規制の厳しい環境では、このガバナンスレイヤーこそが成功の鍵となります。

最後に、オーケストレーションレイヤーが次の処理を決定します。信頼度の高い案件は、そのまま後続のシステムへ送られます。一方、人による判断が必要な案件は、レビューを支援する専用の作業環境へ振り分けられます。

そこでは、元の文書、企業データ、AIによる要約、信頼度の指標、推奨される対応をまとめて確認できます。担当者はすべての案件を確認するのではなく、人の判断が本当に重要な案件に集中できるようになります。

ビジネス上のメリット
 

企業側エンドポイントが導入されると、提供できるサービスの範囲が広がります。インテリジェントな受付・振り分け、AIを活用した取引処理、保険金請求や各種案件の意思決定支援、不正・リスクの一次判定、AIを活用したマネージドオペレーションなどが可能になります。

ビジネス上の考え方はシンプルです。AIは、現在、人手に依存したアウトソーシングで行われている業務の多くを自動化していきます。ハイブリッドBPOは、この変化に押し流されるのではなく、変化を成長の機会として活用するためのアプローチです。

企業データやシステムとの連携は、ストレート・スルー・プロセッシング(STP:人手を介さない一貫した自動処理)の拡大にもつながります。

より多くの業務を、人手を介さず正確に処理できるようになるため、既存のリソースで対応できる業務量が増え、営業利益率の改善も期待できます。

さらに、顧客企業との関係強化にもつながります。企業がAIによる業務モデルの変革を進めるなかで、こうした取り組みに参加するパートナーとして選ばれるのは、基幹システムを外部に公開したり、機密データを社外へ複製したりすることなく、安全で適切にガバナンスが確保されたAIを提供できる事業者です。

こうした取り組みが、信頼関係の構築につながります。

そして、その関係はさらに広がっていきます。文書処理から始まった協業が、他の業務プロセスや部門へと拡大する可能性があります。

これらを実現するには、特定のAI技術、文書処理技術、自動化技術だけを対象とした個別のソリューションではなく、包括的なオーケストレーションプラットフォームが必要です。

そのプラットフォームには、文書・データ処理、ワークフローのオーケストレーション、ビジネスルール、企業システムとの連携、人による確認・判断を組み込む仕組み(Human-in-the-Loop)、監査可能性、セキュリティ統制などを備える必要があります。

TCG ProcessのオーケストレーションプラットフォームであるOCTOは、こうした要件に基づいて開発されました。私たちはBPOパートナーと協力し、BPO事業者側の業務環境と、顧客企業側のエンドポイントの両方にOCTOを導入しています。

重要なのは、すべてのコンポーネントを同じ場所で実行する必要がないという点です。各処理は最適な環境で実行し、オーケストレーションレイヤーがワークフロー全体を調整しながら、ガバナンスを維持します。

このアプローチは、データ主権、説明可能性、業務上の管理権限が重要となる運用モデルに適しています。

その結果、真のパートナーシップが生まれます。BPOパートナーは業務運営の専門知識、業界・業務領域に関する知見、処理能力を提供します。一方、顧客企業は、判断の根拠となるシステム、データ、ビジネス上の文脈を提供します。

オーケストレーションレイヤーは、双方が合意したガバナンスのもとで、これら2つの環境を結び付けます。

AIが従来のアウトソーシングのあり方を変えていくなかで、私たちは、BPO事業者にとっての成長機会は、単に処理する業務量を増やすことではなく、すでに熟知している業務プロセスから、より大きな価値を生み出すことにあると考えています。

BPO事業者と顧客企業の間に存在するセキュリティ上の境界は、インテリジェントな業務運営を実現するうえで、依然として最大の障壁です。

企業による自動化が進むにつれて、人手の提供を中心としたアウトソーシングモデルには、ますます大きな変革圧力がかかるでしょう。そして顧客企業は、適切なガバナンスのもとで、AI、業務運営の専門知識、信頼できる企業情報、人による判断を組み合わせられるパートナーを求めるようになります。

BPO事業者にとって、ラストワンマイルのギャップを解消することは、自動化の拡大、利益率の改善、サービスの差別化、顧客企業との関係強化を意味します。

顧客企業にとっては、ガバナンスや管理権限を手放すことなく、STPによる自動処理を拡大できることを意味します。

情報が保管されたキャビネットは、鍵がかかったままです。ただ、アナリストがその情報に問い合わせられるようになるのです。

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